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2025年01月06日 [院長コラム]

新年のごあいさつ、と本のこと

あけましておめでとうございます。
皆様に取りまして、穏やかで、素晴らしい1年になりますようお祈り申し上げます。

今年は巳年、私は還暦の年男になります。
当診療所も本年6月でまる30年!
まだまだ頑張って地域医療に貢献したいと思っております。よろしくお願い申し上げます。

さて、今年一発目のコラムは本(読書)について書いてみようと思います。どうも最近矯正の話から離れていますが、お許し頂ければ幸いです笑

昨年末の読売新聞に2024年のベストセラー本のランキングが掲載されていたのですが、文庫売り上げベストテンに「アルジャーノンに花束を」がランクインしていたのをみて「おおっ!」と思いました。

この作品を初めて読んだのは二十歳頃、今から40年ほど前です。実はそれまで本と言えば読むのはほとんど漫画ばかり、小説という創作物を結構下にみている大馬鹿者だったのです。映画大好きの自分にはその理由がありました。映画は脚本(物語)、演出、演技、撮影、音楽、編集とあらゆる芸術的要素が内包された総合芸術である。漫画も物語と、それを表現する作画とコマ割りによって生み出される総合芸術である。でも、小説って物語を紡ぐ文章だけの世界だよね?……と。

今考えれば自分の浅はかさを恥じるしかありません。

それでもSF小説は好きだったので、早川書房さんから出版されていたクラークやアシモフといった巨匠の作品は当時からちょこちょこ読んでいました。そんなある日、新宿の大きな本屋さんに行くと、その早川書房さんから出ているハードカバーが平積みになっていました。それが「アルジャーノンに花束を」だったのです。

このコラムを書くにあたりネットで調べてみましたが、この本の邦訳初版は1978年だそうです。私が出会った頃はもう出版から7年ほど経過していたことになりますが、なぜその時目に付くように平積みされていたのかは全く分かりません(今となってはその出会いに感謝するしか無いのですが)。

表紙に綺麗な花束が描かれたその本をめくっていきなり面食らいました。小さな子供が書くような拙い文章が延々続いており、ひらがなばかりで漢字はなし。誤字脱字のような記述もそこかしこにみられます。何これ?というのが最初の印象でしたが、パラパラとページをめくるとだんだん漢字が増えていき、普通の文章になっていくようです。あまりこういう仕掛け(?)の本を読んだことがなかった、というかそもそも大して小説を読んでこなかったので、読んだことがなかったも何もないのですがとにかくその本にはなんとなく興味を引かれました。

いまやこの作品はあまりにも有名になり、SNSなどでも紹介され、新たな読者を増やし続けているようです。SNSをやらない私にはその辺の展開はよく分からないのですが、きっと口コミ的なものがあるのでしょう。未読の方もいらっしゃると思うのでここでは内容には触れずにおきますが、私はこの本に出会って小説というものに対する見方が劇的に変わりました。小説でしか、文章でしか表現できない世界というものが間違いなく存在し、その世界は想像を遙かに超えるほど広大であるということを痛感させられました。

この小説は映画にも、日本ではドラマにもなっています。これらの映像作品は確かに良質なものですが、それでも原作には遠く及ばないと思わざるを得ません。脚色云々の話ではなく、この物語は小説でなければ、文章でなければ絶対に伝わらないものが間違いなく存在しているのです。

この作品との出会いをきっかけに、私はほんとうに多くの本を読むようになりました。今でも読書は大好きです。といっても難しい本はからきしで、ほとんど文芸書、特にミステリばかりではありますが。

読書離れが危惧されるようになって久しいですが、狭山市も本屋さん随分減りましたよね。ちょっと本を見ようと思っても、ふらりと出かけられる距離にないのが現状です。もちろん買いたい本が決まっていればアマゾンなどで購入できますし、何より今は電子書籍全盛なので、本を買うというよりデータを端末にダウンロードするというイメージになってしまっているのかもしれません。もちろん私も電子書籍は便利なので利用しますが、本屋の実店舗に行かないと、「偶然の巡り会い」ってなかなか無いものですよね・・・

私と「アルジャーノンに花束を」も書店での偶然の出会いでした。この出会いは、その後の私自身のカルチャーの嗜好を左右する、人生におけるとても大きな出会いだったと今でも思っています。

最後に、このコラムで「アルジャーノンに花束を」を読んでみようと思われた方(います?)にひとつだけお願いがあります。どうか電子書籍ではなく、実際の本でお読みください。

この本の内容は全て主人公チャーリー・ゴードンの日記です。電子書籍ではいまひとつ相性がよくありません。そして、めくってきたページと、残っているページの厚みから、自分が今物語のどの辺りにいるのかをうっすら意識しながら読み進めていただくと、より感動も深まるのではないかと思います。

ダニエル・キイスさんの創り出した物語が素晴らしいのは言うまでもありませんが、小尾芙佐さんの翻訳も神訳という言葉では足りないほどの超・超名訳です。お時間があれば、ぜひ手に取って頂ければ嬉しく思います。