ブログ
BLOG

2022年03月11日 [院長コラム]

デジタルとアナログ

先日行きつけのシネコンで映画を観たのですが、どうも画面の色調に赤みがかっていてコントラストが弱く、全体的に暗い感じがしました。これ一本ならそういう色味の映画なのだな、で済んだのですが、実は少し前に同じスクリーンで別の映画を観て、その時も全く同じ印象を受けたのです。前回は実写映画で今回はアニメ。共に暗めのシーンでは画面がつぶれてしまい、何をやっているのかあまりよく分からない状態でした。
もちろん両映画ともこの色調が製作者側の意図に沿ったものであることは否定できません。ですが、同じスクリーンであったこと、さらにそれ以外のスクリーンではそういった違和感を持ったことが無いことを考えまして・・・
思い切ってお話させていただきました。マネージャーと思しき方に、「あのスクリーンのプロジェクター、ちょっと調子悪くありませんか?」と。
もちろんその場で何が分かるでもなく、調べておきますみたいなお話になったのですが、何かうるさいやつと思われたかなあ。いつも本当にお世話になっているホームとも言うべきシネコンなので、こちらもちょっと複雑な気持ちでした。

思えば、映画がフィルムで上映されていたときにはこんなことは無かったような。フィルム上映では基本2台の映写機を使用しますが、映写技師さんのお仕事は本当にプロフェッショナルなものでした。観客にフィルムロールの変わり目を全く気づかせないようスムーズな切り替えが行われ、その技術を堪能することも映画の楽しみの一部だったような気がします。また、映写技師さんがいれば、色調の変化にもすぐ気づき、その場で調整することもできたと思います。アナログの世界では、人の手による繊細な調整ができると感じました。

今やほとんどの映画館はデジタル上映、昔では考えられないような素晴らしい規格、THXやらDOLBY CINEMAやらが次々出てきています。映像も驚くほどクリアになっており、もちろんこれはこれで大変結構なことなのですが、なんだか最近無性にアナログ感満載の昔の映画館が懐かしくなるのです。開映時、スクリーン前のカーテンがするすると開いていくときの高揚感とか、開映を知らせるブザーとか。自由席なら朝から晩までいても何も文句言われませんでしたし、毎回しつこい!と心の中で叫んでしまうカメラ男もパトランプ男もいませんでした。

昨今、各分野でのデジタル化の波は止めようもなく、勿論歯科にも大波が押し寄せています。デジタル・デンティストリーなんて言われており、矯正でもアライナー矯正に代表されるように、とにかくデジタル、デジタル、乗り遅れるなー!と歯科器材の業者さんは一生懸命煽っています。
確かにデジタルレントゲンはアナログに比べとても少ない線量で鮮明な画像が得られるので患者利益は大きいと思いますし、口腔内スキャナーなんかもお口の型取りが苦手な方には朗報でしょう。必然的な流れであることは私もよく理解できます。

でもね。やっぱり矯正治療で一番重要なのは、「歯並びを治したい」という患者さんの治療に対する前向きな気持ちと、それに応える矯正医の的確な診断と高い技術だと思うのです。こういうところはやっぱり、デジタルでなくアナログの世界。
矯正医として長年の経験から得た勘のような繊細な部分は、決してデジタル化できません。映画のデジタル化によって消えてしまった映写技師さんみたいにならないよう、矯正医のアナログな部分は大事に残して伝えていきたいと思います。