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2011年06月06日 [院長コラム]

「床矯正」が話題のようです。

「床矯正」=「しょうきょうせい」と読みます。ネット等で矯正歯科を検索した際に見かけたことがあるかも知れません。

去る6月5日の日曜日、むし歯予防デーが市の保健センターで開催されました。今年も900名を超える市民の方に足をお運びいただきましたが、もし本コラムをお読みでご来場いただいた方がいらっしゃいましたら、この場を借りて御礼申し上げます。本当に有り難うございました。
さて、私はそのむし歯予防デーで、狭山市歯科医師会会員として毎年歯並び・矯正に関わる歯科相談をさせていただいております。今年は30組近いご家族の方々とお話をさせていただきましたが、その際、何人もの親御さんからいただいたのが、今回のコラムのテーマでもあります「床矯正ってどうなんでしょう?」というご質問でした。ここでは、あくまで私見ではありますが、私の考えを述べさせていただきます。

床矯正とは一般的に取り外しのきく入れ歯の形に似た矯正装置(これを床装置といい、床矯正の名称もここからきています)を用いて、歯列の横幅を拡げることを主に行います。永久歯と乳歯が混在する、いわゆる混合歯列期に認識されやすい不正咬合の代表的なものに叢生(でこぼこ)がありますが、歯の並ぶ土手の部分を拡げることによってスペースを増やし、でこぼこを解消していこうという意図があるようです。

床矯正を標榜している医院の多くは矯正専門医院ではなく、そのほとんどが一般の歯科医院だと思います。技工所に発注して製作してもらった装置を患者様にお渡しして使用してもらうという比較的シンプルな治療形態のため、あまり矯正の熟練度が高くない歯科医師でも導入し易いのでしょう。また、その敷居の低さは費用にも現れており、一装置数万円程度という設定で、患者様が治療に入ることを決断し易くしているようです。

さて、ここで矯正専門医としての意見を述べさせていただきます。矯正治療に関わらず、何かの医学的な治療を行っていく際に大切なことは何でしょう。幾つか意見はあるでしょうが、そのうちのひとつとして「個別診断」を挙げることが出来ると思います。不正咬合の状態は各人さまざまです。歯の大きさや位置、顎の大きさ、上下の顎の関係、舌や口唇の状態など、個人個人の不正の状態をなるべく正確に把握し、それをもとにその方に一番適した治療方法を検討・立案する努力が、良質な治療のためには不可欠なのです。これが個別診断です。
ほとんどの症例に区別無く「歯列の横幅を拡大する機能をもつ」床装置を処方する床矯正は、この個別診断がしっかりと行われているのでしょうか。もちろん確固たる検査、診断のもと床矯正を行っている先生も沢山いらっしゃるとは思います。しかし、それを上回る多くの医院では、良好な結果が担保されていない現実があるのではないかと感じます。
しっかりした個別診断の行われていない矯正治療は、言葉は悪いかもしれませんが、「あてずっぽう」の治療に他なりません。

そこで、最後にひとつご提案をさせて下さい。
もし床矯正を勧められたら、その先生に「セファロを撮って診断して下さいますか?」と質問してみて下さい。セファロとは「側方頭部X線規格写真」という名称のレントゲン写真のことです。これは、現時点では成長期のお子様の矯正診断に不可欠とみなされているもので、例えば矯正学会などではこのレントゲンの分析がないと症例評価の対象にさえなりません。このレントゲンを撮影し、その分析結果についてしっかり説明をして下さる先生は、おそらく信頼して大丈夫です。もし撮影しない、もしくは撮影装置自体が無いという場合、それは「あてずっぽう」の治療になる可能性が大きいと思います。

良質な矯正とは「小学校のとき一旦はきれいにならんだんだけど、大きくなったらまたがたがたになっちゃった」などどという空しいものでは決してありません。