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2024年07月01日 [院長コラム]
久しぶりに、学会発表をします
7月11日に開催される第83回東京矯正歯科学会で、久しぶりに学会発表をさせていただきます。
発表といっても演台上でかっこよく話すようなものではなく、私が治療させていただいた患者様の治療記録(レントゲン写真、顔面・口腔内写真、模型など)を展示し、会員の先生に供覧していただくものです。
こういった発表にはもちろんその患者様のご同意が必要になりますが、お願いしたところ快くご了承いただきました。もちろん患者様の特定に繋がるような情報は顔写真を含め一切無いように修正して使用しますが、この個人情報に関する諸々が極めて厳しい時代に、こういった資料を使わせていただけるのは本当に有り難いことです。
わざわざ発表をするということは、ただ単に治療しました、治りましたという症例ではなく、他の歯科医師に見てていただきたい何らかの理由があるのです。
今回は、他の歯科医院で約4年間矯正治療を受けておりましたが、転居のためその歯科医院のへの通院が不可能になってしまい、その後の治療を当院で引き受けた症例です。
治療開始後、4年間可轍式矯正装置(床装置、取り外しのきく装置です)を使用しており、成人の患者様ですが、まだブラケットは装着されていませんでした。歯列の側方拡大により前歯前突の解消を試みたようですが、当院受診時、前突は著明に残った状態で、抜歯が必要なことは明らかに見えました。
結局、当院でマルチブラケット装置を装着し、抜歯をして治療を行いました。抜歯より前突は改善し、患者様にも治療結果にはご満足いただけているようで、前任の先生にも「一生懸命治療していただいた」と感謝されていました。
結果だけみればとても幸せな帰結です。
が、ひとつ考えなければいけないことは治療期間です。この患者様は、矯正治療開始から動的治療終了まで約7年の期間を要しました(当院では、はじめに装置を一切使用しない期間を半年間とり、その後抜歯をして2年半マルチブラケットによる治療を行いました)。
7年というのは、相当長い期間です。例えば小学生の頃から1期治療として始めた場合、2期治療が終わるまでに相応の期間がかかるといったことは矯正ではよくありますが、この患者様は治療開始年齢から既に骨格や歯列は完成しており、基本的に治療はひとつのフェイズで終わるはずです。それに7年かかるというのは、余程の難症例でも通常は考えられません。
今回の発表のテーマは、やはり個別診断の重要性ということになります。この患者様は、一般的な矯正治療に必要な検査・分析を行えば、抜歯が不可避であるということは初診の段階から自明であったと思われます。そういった診断とそれに基づく治療方針の立案が為されぬまま、ただ歯列を拡げるということが行われたが故に治療期間はかように長期化したと言えます。
今回の患者様に限らず、例えば何年も床装置などにより盲目的に歯列の拡大が行われているような症例は少なくありません。こういった介入がぴったりはまる症例もあることは事実ですが、残念ながらそれが適さない(すなわち、目立った治療効果が出ない)症例もたくさんあるのです。
私も、スタートの治療計画を間違えることがあります。その場合、なるべく早く再評価を行い、患者様と相談した上で軌道の修正を行うよう心がけています。そういったことが必要になるのはひとえに私自身の力不足によるものですが、なるべく患者様にご迷惑をおかけすることがないよう、恥をしのんで経過をご説明をするようにしています。そして、なるべく治療を効率的に、短期間で終えられるように再考していきます。
いまさらですが、謙虚であることは本当に大切だと思います。これは矯正医に限らず、全ての医師・歯科医師に言えることです。スーパードクターはほんの一握りしかいません。自分の力を過信せず、つねに自戒の念をもって診療に当たることが大切だと、心から思います。